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最高裁判所第二小法廷 昭和38年(あ)2389号 判決 1964年5月23日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人佐々木曼の上告趣意第一点について。

所論は判例違反を主張する。しかし引用の昭和二年(れ)第一五四六号同三年一月二八日言渡の大審院判例は本件と事案を異にしていて適切でないから、右判例を引用する主張はその前提を欠き刑訴四〇五条の上告理由に当らない。ところで原判決は、累犯加重の原因となる前科の事実を判示しながら、これを認定する証拠の標目を挙示していない第一審判決を正当として維持し、所論引用の名古屋高等裁判所昭和二四年九月六日言渡、同裁判所昭和二五年三月二七日言渡、東京高等裁判所昭和二九年四月五日言渡の各判例と異った判断をしていることは所論のとおりである。しかしながら累犯前科の事項は、実質において犯罪事実に準ずるものであるが、刑訴三三五条一項所定の「罪となるべき事実」そのものではないから、審理において適法な証拠調をした証拠によりこれを認定することができる限り、判決においてはその事実を判示すれば足り、これを認定する証拠の標目を挙示することまでは必ずしも必要でないと解するのを相当とするところ(昭和二三年(れ)第七七号同二四年五月一八日大法廷判決刑集三巻六号七三四頁、昭和三二年(あ)第一〇二九号同三三年二月二六日大法廷決定刑集一二巻二号三一六頁参照)、本件記録によれば、第一審は第一回公判において所論累犯前科の事実を認めるに足りる被告人の供述ならびに前科照会書を、適法に証拠調していることが認められるのであるから、その事実を判示している第一審判決につき、これらの証拠の標目を挙示していなくても違法でないとした原判決の判示は相当であって、これと相反する判断をしている前掲各高等裁判所の判例の見解は、採用することができない。したがって所論各高等裁判所の判例を引用する判例違反の主張は理由がない。

同第二点について。

所論は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外)

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